再転相続と相続放棄

再転相続における選択権

****思考メモにつき、今後、本記事の修正は続きます****

 

民法第916条

 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

再転相続における熟慮期間に関する「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは具体的にどのようなときなのか

 

再転相続で、承認・放棄の組み合わせパターンは、次のとおり(「新注釈民法(19)相続(1)第2版 有斐閣578p参照)

第2次相続を先に選択 第2次相続 第1次相続
放棄 選択権なし
承認 承認
承認 放棄

 

第1次相続を先に選択 第1次相続 第2次相続
放棄 承認
放棄 放棄
承認 承認
承認 放棄

以下、設定事例は、第1次相続は祖父死亡 第2次相続は父死亡 放棄・承認を検討する相続人を子 とする。916条は、父が祖父について相続の承認・放棄をしないで死亡したときは、熟慮期間は、子が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算、となる。
①は、父を先に放棄した以上、祖父の相続については検討を要しない
②③は、父を先に承認すれば、祖父の相続についてはどちらでも選択が可能
④⑤は、祖父を先に放棄しても、父の相続についてはどちらでも選択が可能
⑥⑦は、祖父を先に承認すれば、父の相続についてはどちらでも選択が可能
ということになる。
④~⑦は、祖父の相続を先に検討する場合は、父についての選択はどちらでもよいことになる。
⑦のように、祖父を承認して父を放棄するならば、①のように先に父を放棄すれば足りる、と思われるが、子が、先に死亡した祖父の承認をして、次に父の債務超過が発覚・・・となると⑦もありうるのかもしれない。祖父の財産が不動産のみの場合は想定しやすいが、祖父の預金解約金の流れを考えた場合は放棄は難しいのではないか。

 

いずれにしても、再転相続の場合の「自己のために相続の開始があったことを知った時」の解釈が問題となる。

 

令和になってからの有名な判例(最高裁令和元年8月9日判決)では、
「民法916条にいう『その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時』とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである」とある。

 

これにあてはめると、父が祖父の相続の承認・放棄をしないで死亡した場合、子が父からの相続により<父が承認・放棄をしなかった祖父の相続における相続人の地位>を、子が承継した事実を知った時 となる。

 

再転相続についての有名な判例は、昭和63年6月21日判決 と上記の令和元年8月9日判決がある。「新注釈民法(19)相続(1)第2版 有斐閣」 の583ページにおいて、その2つの判例について
「・・再転相続において、第2次相続は、第1次相続の相続財産を承継するが、第2次相続の相続財産から、第1次相続の選択権は切り離されているという統一的な構造のもとに再転相続に関するルールが説明できることになったといえよう」とある。

 

再転相続のパターンを理解するためのイメージとしてはこんな感じだろうか?

①先に父を放棄すると、突き刺さっている祖父の件も無くなってしまう
②③先に父を承認すると、あとは、そこに突き刺さっている祖父の件をどうするか、となる
④⑤先に祖父を放棄しても、祖父の部分が無くなるだけで父の部分は残る
⑥⑦先に祖父を承認すると、突き刺さっている部分が父と一体化する、それをさらにどうするか、となる。
くだけた表現をすると、
父は死亡する前に自分に突き刺さっている祖父について取り込むか切り離すかの選択をしなかった。もしかすると、自分に突き刺さっていること自体知らなかったかもしれない。そして、子としては、父の死後、父の部分については知っていても、そこに祖父の部分までもが突き刺さっていると知っていたか?というイメージなんだろうか?
そして従来の通説だと、祖父の部分は、父の部分に突き刺さっている、というよりは、父の部分に完全に埋め込まれているイメージだったが、現在は、軽く突き刺さっているぐらいのイメージの方が理解がしやすいのではないか、と思う。なぜなら、再転相続において、第1次相続の承認・放棄の選択権が、第2相続の財産の中に取り込まれて含まれているとすると、第1次相続を放棄する行為は第2相続財産の処分行為になり、もはや第2相続についても放棄できなくなるとするのが自然な流れ。しかし、そのような判断はされていない。では、分離されている、とみるか?分離されているとすると、父を先に放棄しても祖父の部分は別に放棄できるベクトルになるが、そうではない。
なので、第1次相続の選択権も、第2相続の相続財産野中に取り込まれずに、突き刺さっている、つまり、第2相続の父の相続財産とは分離しない程度にくっついているイメージがちょうどよいと思う

 

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