租税特別措置法第84条の2の3第2項の適用パターン

共同相続で、租税特別措置法第84条の2の3第1項と第2項、双方の適用可能性がある場合、その適用関係がどうなるのかについては、これまで質疑応答(令和5年)をたよりに計算をしていましたが、あくまでも「質疑応答」レベルでした。令和6年3月、ついに決着がついたようです。

 

実務情報を整理確認のために一時記録しています。当然、内容は随時修正します。通達・判例・条文等の原文確認の契機にのみ利用願います。

死者との共有名義での相続登記申請時の登録免許税の計算には注意!!

令和6年3月中旬に重要な事務連絡があり、租税特別措置法第84条の2の3の 1項と2項の適用関係に関する解釈が大きく変わりました。
令和5年の質疑応答を根拠に登録免許税が存命相続人持分についても個別に2項を適用して非課税となりうるとするネット情報には要注意!ぜひご確認を。

 

租税特別措置法

(相続に係る所有権の移転登記等の免税)
第八十四条の二の三 個人が相続(相続人に対する遺贈を含む。以下この条において同じ。)により土地の所有権を取得した場合において、当該個人が当該相続による当該土地の所有権の移転の登記を受ける前に死亡したときは、平成三十年四月一日から令和七年三月三十一日までの間に当該個人を当該土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税を課さない。
2 個人が、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の施行の日から令和七年三月三十一日までの間に、土地について所有権の保存の登記(不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第二条第十号に規定する表題部所有者の相続人が受けるものに限る。)又は相続による所有権の移転の登記を受ける場合において、これらの登記に係る登録免許税法第十条第一項の課税標準たる不動産の価額百万円以下であるときは、これらの登記については、登録免許税を課さない。

被相続人が施行日(平成30年11月15日)以前に死亡した場合でも適用可。

死者と共有にする場合の登録免許税

令和6年3月19日→27日事務連絡により、下記の考え方は全て否定されました。同業者の方はご注意を

 

登記研究901 187pの質疑応答により一見落着したかに見えた、共同相続における租税特別措置法第84条の2の3第2項の適用の可否が、くつがえされました。
実務の重要指針であったこの質疑応答によれば、死者との共同相続の場合、租税特別措置法第84条の2の3第1項を死者名義に適用した後、残りの持分についてはさらに租税特別措置法第84条の2の3第2項が適用されて非課税となりうる下記の事例。今後は登録免許税がかかります。

被相続にX 法定相続人 亡AとB 土地160万円
亡A 2分の1 80万円
B 2分の1 80万円

存命の相続人Bが 2分の1亡A、2分の1Bの相続登記を行う場合
「死亡した相続人が相続した持分については租税特別措置法第84条の2の3第1項が適用される・・・存命の相続人が相続した持分に係る不動産の価格が100万円以下であるときは、存命の相続人の持分については同条第2甲が適用される。」登記研究901 187p
ということで、この事例では、登録免許税は、租税特別措置法第84条の2の3第1項及び同条第2項ににより非課税 
・・・だった・・しかし!!!これからは違います

この質疑応答の後に発せられた、租税特別措置法第84条の2の3第2項の適用の考え方による事務連絡によれば、上記事例では、登録免許税は3200円が正解となります。

 

被相続人X  法定相続人 亡妻A B C 土地1筆 評価額300万円のケース
相続人3名の相続登記
亡A 4分の2 150万円
B 4分の1 75万円
C 4分の1 75万円

 ネット上で出回ってる下記の思考経路は間違い!
1 亡A持分 租税特別措置法第84条の2の3第1項により非課税 
 (先に1項を適用して、残り全体ついて2項を検討)この考え方は間違っているらしい
2 B C については(各持分ではなく)150万円で判断して、租税特別措置法第84条の2の3第2項は適用できない。
3 登録免許税は 6000円 ←本件は結果論で合っているだけ。

 

1 まずは、不動産の価格300万円で登録免許税を計算する
 登録免許税は、12,000円
2 次に、亡A持分について、租税特別措置法第84条の2の3第1項を適用
 亡A 4分の2 150万円についての登録免許税は6000円なので、12,000円ー6000円=6000円が納付すべき登録免許税となる

 

 

被相続人X  法定相続人 亡妻A B  土地1筆 評価額160万円のケース
相続人3名の相続登記
亡A 2分の1 80万円
B 2分の1 80万円

 ネット上で出回ってる下記の思考経路は間違い!
1 亡A持分 租税特別措置法第84条の2の3第1項により非課税 
 (先に1項を適用して、残り全体ついて2項を検討)この考え方は間違っている
2 B については80万円で判断して、租税特別措置法第84条の2の3第2項は適用
3 登録免許税は 租税特別措置法第84条の2の3第1項および同第2項でゼロ??  

1 まずは、不動産の価格160万円で登録免許税を計算する
 登録免許税は、6400円
2 次に、亡A持分について、租税特別措置法第84条の2の3第1項を適用
 亡A 2分の1についての登録免許税は3200円なので、6400円ー3200円=3200円
3 Bが納付すべき登録免許税は、3200円

 

なぜ、このようなことになってしまっていたのか?

 

租税特別措置法第84条の2の3の条文ばかりを見ているからである。登録免許税法10条1項にさかのぼって読み解く必要がある。

登録免許税法

(不動産等の価額)
第十条 ・・・・(略)・・・不動産・・・の登記・・・における課税標準たる不動産・・・(以下この項において「不動産等」という。)の価額は、当該登記・・・の時における不動産等の価額による。(略)

「不動産の価格」の文字に注目、「不動産の価格」の文字は、登録免許税法10条、租税特別措置法第84条の2の3第2項にある(死者名義の1項にはない)。
つまり
被相続人の所有する「不動産の価格」に相当する登録免許税を計算する際に、その被相続人の不動産価格が租税特別措置法第84条の2の3第2項に当たる場合は、それを課さない、2項に当たらない場合であっても、1項で死者名義部分は課さない、という思考経路でいけば、上記の事務連絡のようになっていたでしょう。
私も、1項を適用してからの2項適用でしょ?と令和5年の質疑応答が無くても思ってしまっていました。でも、このように「不動産の価格」という文言から読み解くとなるほど、と思います。1項と2項の順序が逆だったら、解決が早かったかもしれません。同業者のみなさまはいかがでしょうか?

 

登記研究851号p139の質疑応答は、趣旨が異なるとのことです。つまり、被相続人が共有持分を有する場合は、その被相続人の持分について租税特別措置法第84条の2の3第2項の適用を検討するが、1項を先に適用して残りの持分について2項の検討をするわけではない、と言いたいのでしょうか?

 

多くのサイトでは、租税特別措置法第84条の2の3第1項により非課税、さらに同条2項により非課税となり、登録免許税はかかりません、などと令和5年の質疑応答を根拠に使用していますが、事務連絡で明確に判断が示された以上、注意が必要です。

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