取締役ごとに異なる任期を定める場合

取締役ごとに異なる任期を定めることが可能であることに、争いはない。
では、定款を変更せずに、株主総会の決議のみで取締役の任期を個別に決めることができるのか?
答えはケースバイケース

 

例えば、「定款」に次のように明記している場合

(取締役の任期)
第〇〇条
 取締役の任期は、その選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、株主以外の取締役の任期は、その選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。

株主総会で、株主Aを取締役として任期10年で選任、株主ではないBを取締役として任期4年で選任決議をすることは可能

 

(取締役の任期)
第〇〇条
 取締役A及びBの任期は、その選任後年8年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。その他の取締役の任期は、その選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。

ここで、任期満了時の定時株主総会決議でAを重任させる際に、Aの任期を10年にすることには、定款で定めた任期8年を「伸長」することになるので、あらかじめ当該定款の変更が必要。

取締役の任期を株主総会決議のみで個別に決めることができるのか

 

小規模閉鎖会社の定款の多くは次のようになっていると思われる。

(取締役の任期)
第〇〇条
取締役の任期は、その選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。

例えば、現在の取締役はA1名のみ。株主総会で、取締役Aの重任に加えて、取締役Bを新たに選任する決議を行うことを想定してみる。取締役Aの任期は従来どおり10年とするが、取締役Bの任期は4年としたい場合は、あらかじめ定款変更が必要なのか?選任時の株主総会決議のみでは足りないのか?という疑問が生じる。これは、あくまでも就任前の話であり、任期在任中の取締役の任期を短縮するという有名事例とは異なる。

会社法第332条

 取締役の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
2 前項の規定は、公開会社でない株式会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)において、定款によって、同項の任期を選任後十年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することを妨げない。
3 監査等委員会設置会社の取締役(監査等委員であるものを除く。)についての第一項の規定の適用については、同項中「二年」とあるのは、「一年」とする。

素直に読めば、定款上の任期よりも「短縮」する場合は、「株主総会の決議」のみで足りることになる。取締役と会社との関係は委任契約であるし、少なくとも、選任決議において任期を従来よりも「短縮」することは可能で、取締役がこの内容で就任承諾すれば足りる。

 

ではなぜ、この定型10年パターンの定款を変更しない限り取締役の任期を個別に定めることができない、と言っている士業がいるのでしょうか?
定款を変更した方がよい、と、定款を変更しなければならない、とでは意味が異なります。

 

私の手元にある、会社法基本書2冊、新基本法コンメンタールなどの著名書籍には、定款で任期を定めた会社が特定の取締役について株主総会の決議において個別に任期を定める場合について記載しているものはありません。条文どおり読めば当たり前のことだからいちいち記載する必要が無いとか?とはいっても、なんらかの書物で確認しておきたい、というのが士業のサガ。

 

この点、登記情報547号34p「商業登記実務のための会社法Q&A(10)法務省民事付検事松本真、法務省民事局付清水毅」に記載がありました。
ここには「取締役の任期については、定款又は株主総会の決議によって、これを短縮することができることとされているが(会社法332条1項ただし書)、法定の2年の任期(同項本文)のほか、定款によって短縮又は伸長された任期についても株主総会の決議によって短縮することができるものと考えられる」とあります。
そりゃそうですよね。条文上の年数はあくまでも最長期間を定款で定める、という意味で、この範囲内であれば選任時に取締役の個性に応じて任期を個別に定める、というのが実情に合っていますし、委任契約、という観点からも合理的です。

 

これを踏まえて再度整理します。

 

(取締役の任期)
第〇〇条
 取締役の任期は、その選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時総会の終結の時までとする。

このような定款規定ある会社で、AB2名の取締役を選定する場合、選定する株主総会の決議で「Aの任期は、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時総会の終結の時までとする。Bの任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時総会の終結の時までとする。」とすることは可能で、この場合、定款変更は不要ということになる。

 

それでも、疑義が生じるというのであれば定款に

(取締役の任期)
第〇〇条
 取締役の任期は、その選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時総会の終結の時までとする。ただし、選任時の株主総会の決議により、特定の取締役の任期を短縮することを妨げない。

のような記載しておくのがベストかも。

 

定款変更と取締役の選任の決議要件は異なるので疑義が生じるのけれど、そもそも株主総会で「解任」決議が可能なこと(「解任」という文字が登記上記録されることは別問題)、本人の意思で「辞任」が可能なことからすれば、上記記事はあたりまえのことかもしれない。
ちなみに先の記事には、「取締役の任期を定款によって法定の2年よりも短縮している会社において、株主総会の決議によってその任期をさらに短縮することも可能である」とありました。なるほど。

 

(取締役の任期)
第〇〇条
 取締役の任期は、その選任後5年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時総会の終結の時までとする。

この会社で、取締役Aの任期を7年としたい場合・・・といっても、取締役Aが在任中なのか、それとも任期満了重任決議時なのかによって、場合分けして考える必要がある。在任中であれば、定款変更を行う、重任選定時であれば、1号議案で定款変更、2号議案で選定決議。
なお、在任中の特定の取締役の任期を4年としたい場合は、定款変更をする、しないの問題とは別の観点から先に検討する必要があることは、有名な東京地裁判決があるので、省略。

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