相続登記の義務と過料
相続で不動産を取得した相続人は、相続登記を申請する義務があります。正当な理由なくこれを怠ると過料に処せられます。

相続登記を怠ると、10万円以下の過料

 

他の相続人との話し合いも終わり、不動産を相続することが決まっている人は、他の相続人から遺産分割協議書に実印をもらえるうちに、すみやかに必要書類を揃えて相続登記を行うべきです。
このことは相続登記が義務される前でも同じことです。年月の経過によって、疎遠、高齢化、認知症などの弊害が増え、手続きがより面倒になり、費用も増えるリスクがあります。

 

(相続等による所有権の移転の登記の申請)
不動産登記法第76条の2
 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
2 前項前段の規定による登記(民法第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてされたものに限る。次条第4項において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割があった日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
3 前二項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、当該各項の規定による登記がされた場合には、通用しない。

 

要は、不動産を取得した相続人は、知った日から3年以内に、相続登記申請をする義務がある

(過料)
不動産登記法第164条
・・・(途中省略)第76条の2第1項若しくは第2項又は第76条の3第4項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処する

 

では、令和6年4月1日より前に開始した相続はどうなるのか?

不動産登記法附則(令和3・4・28法24)第5条第6項
第二号新不動産登記法第76条の2の規定は、第2号施行日前に所有権の登記名義人について相続の開始があった場合についても、適用する。この場合において同条第1項中「所有権の登記名義人」とあるのは「民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第1条第2号に掲げる規定の施行の日(以下この条において「第2号施行日」という。)前に所有権の登記名義人」と、「知った日」とあるのは「知った日又は第2号施行日のいずれか遅い日」と、同条第2項中「分割の日」とあるのは「分割の日又は第2号施行日のいずれか遅い日」とする。

要は、令和6年4月1日より前に相続が開始している場合は、すぐに義務違反となるのではなく、3年間の猶予期間がある

 

相続人以外の受遺者に義務はない

不動産登記法76条の2第1項後段

 

義務違反の調査は機械的になされるのか?

「相続登記の申請義務化の施行に向けたマスタープラン」(令和5年3月22日法務省)
第4 相続登記の申請義務化の運用方針の決定 の「2 登記官による相続登記の申請義務に違反した者の把握方法」によれば、
「例えば・・・次のような場合が想定される。」として

「? 相続人が遺言書を添付して遺言内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺言書に他の不動産の所有権についても当該相続人に遺贈し、又は承継させる旨が記載されていたとき。
? 相続人が遺産分割協議書を添付して協議の内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺産分割協議書に他の不動産の所有権についても当該相続人が取得する旨が記載されていたとき。」(p5)

とある。

かなり限定的な印象です。

 

 

3年過ぎるとすぐに裁判所から過料決定が来るのか?

流れとしては、登記官は、登記義務違反があり過料に処すべきと判断した後、地方裁判所に「過料通知」を行います。地方裁判所は、過料に処するか判断を行えば、過料決定が届きます。

 

では、登記官は、相続登記を怠っていることを職務上知った場合、すぐに地方裁判所に「過料通知」を行うのか?義務違反者にこれを免れるチャンスはないのか?

 

先ほどの「相続登記の申請義務化の施行に向けたマスタープラン」「第4 相続登記の申請義務化の運用方針の決定」「1 過料通知及びこれに先立つ催告」として

具体的には、登記官が過料通知を行うのは、申請義務に違反した者に対し、相当の期間を定めてその申請をすべき旨を催
告したにもかかわらず、正当な理由なく、その申請がされないときに限ることとし、また、当該催告に応じて登記の申請がされた場合には、それ以前の正当な理由の有無にかかわらず、過料通知は行わないものとする。

催告があるので、催告に応じて登記申請を行えば、過料通知はなされない

 

 

 

 

「正当な理由」とは?

相続登記の申請をしないことに「正当な理由」がある場合は、過料通知はなされない。

 

では、「正当な理由」とは?

 

これは個別具体的事情で判断されるもの、登記官が具体的事情を確認したうえで判断される、としながらも、具体例としては、相続人が極めて多数で戸籍収集や相続人の把握に時間がかかる、重病、DV被害等で避難中、経済的困窮で登記費用の負担ができない、などあげられているが、それ以外の事由においても個別具体的に判断される。

 

期間を過ぎて相続登記をしたら、過料通知はくるのか?

 

登記官としては、登記申請されたことで、3年以内に登記する登記申請義務違反の事実を把握することになる。しかし、「登記申請義務の履行期間の経過とともに過料の制裁を恐れて登記申請がなされなくなるといった事態を回避するため」「直ちに過料通知の対象とならない」(月報司法書士2022.7No.605p87)とのこと。
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