取締役会決議省略(みなし決議)による代表取締役選定
会社法370条による取締役会決議を省略して、取締役全員の同意により、代表取締役を選定する場合の、重任、就任登記申請の際の添付情報について

コロナ禍をきっかけとして、定時株主総会、取締役会を書面決議、オンライン開催する企業は多いと思われます。
定時株主総会で取締役を選任して、その後の取締役会で従前の代表取締役を再度選定する、代表取締役の「重任」ケース・代表取締役の「就任(完全交替)」ケースで、取締役会の決議の省略(書面決議)を中心に再検討してみます。
この記事は過去の検討記録であり法改正等は即時反映修正していません。士業者向けです。

 

 

取締役会の決議省略の定款の定め

(取締役会の決議の省略)
第三百七十条 取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。

 

取締役会を構成する取締役が、リアルな会合又はオンライン会議を行わず、事前に書面のみで決議を行ったことにする場合、事前に定款上にその旨を許容する記載があるかを確認する必要があります。

 

これがない場合、取締役全員の書面同意で、代表取締役を選定(重任を含む)をすることはできません。

 

事前に、定款変更を行う必要があります。

 

取締役会議事録

先述の定款規定があり、取締役全員から、代表取締役を重任させる同意書面を得られた場合、その代表取締役を重任する旨の取締役会の決議があったものとみなされます。

 

この場合も、「取締役会議事録」を作成する必要があります。

 

議事録に記載すべき事項は、会社法371条・369条3項、会社法施行規則101条4項にもとづき
①取締役会の決議があったものとみなされた事項の内容
②①の事項の提案をした取締役の氏名
③取締役会の決議があったものとみなされた日
④議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
を記載します。

 

議事録作成は、「重任」する代表取締役が行い、そこへ会社届出印を押捺することが多いはずです。

 

*議案を提案した取締役も(「提案」と「同意」は異なるから)、自分の提案への同意書面は必要です。

 

 

 

みなし決議での代表取締役重任登記申請

取締役全員の同意による取締役会みなし決議で、代表取締役の重任が決まり、重任登記申請を行う場合の添付情報(添付書面)はどうなるのでしょうか?

 

とりわけ、取締役会議事録への他の取締役の実印・認印・署名の要否が問題となります。

 

みなし決議ではなく、リアル取締役会で代表取締役の重任決議を行った場合は、
取締役会議事録へ代表取締役が会社届出印を押印することが通常ですので、他の取締役は、記名押印又は署名 で足ります。

 

商業登記規則61条6項
 代表取締役又は代表執行役の就任による変更の登記の申請書には、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める印鑑につき市区町村長の作成した証明書を添付しなければならない。ただし、当該印鑑と変更前の代表取締役又は代表執行役(取締役を兼ねる者に限る。)が登記所に提出している印鑑とが同一であるときは、この限りでない。
(一部記載省略)
三 取締役会の決議によつて代表取締役又は代表執行役を選定した場合 出席した取締役及び監査役が取締役会の議事録に押印した印鑑

*ここにある「就任」には、あえて「再任を除く」との文言がありませんので、再任(重任含む)も含まれます。

 

では、会社法370条による取締役会みなし決議(書面決議)の場合で、代表取締役が議事録作成者として議事録へ会社届出印(登記所に提出している印鑑)を押捺したとして、他の取締役の押捺等はどうすべきでしょうか?
社内慣習の問題はさておき、ここでは、役員変更(代表取締役の重任)登記申請に特化して検討します。

 

(取締役会の決議)
第369条 
(1項 2項 記載省略)
3 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。

 

取締役会議事録への「署名又は記名押印」義務のある取締役は、あくまでも取締役会に「出席した」者です。みなし決議の場合は、取締役会は開催されていませんので、「出席」する方法がなく、出席した取締役はいません。とすれば、会社法的には、議事録作成者とならない取締役は、その取締役会議事録に「署名又は記名押印」をする必要はありません。

 

そして、取締役全員の同意があったことを証する書面も、添付する必要はないと考えられます。

 

このような代表取締役の重任登記場面においては、取締役会議事録に議事録作成者としての代表取締役の会社届出印の押印のみしかなくても、ことさらに、取締役の同意書面に実印押捺をさせてこれを登記申請に添付する必要はない、ということになります。

 

添付書面(必要書類)

取締役会みなし決議(書面決議)により、代表取締役の重任登記申請を行う場合

 

通常の役員変更のケースの株主総会議事録や株主リストなどのセット書類の他に・・・
定款
取締役会議事録(代取が会社届出印押印していることを前提・・・)
代表取締役の就任届(席上就任した旨の記載ができないため必要)

 

が必要です。

 

なお、通常のリアル取締役会を開催して重任決議を行った場合に添付する取締役会議事録には、代表取締役が会社届出印を押捺していれば、他の取締役・監査役は、「署名」のみでも足ります。印鑑を忘れた役員に対して、ことさらに、後日実印等を持参させなくても、登記申請それ自体は可能です。

 

詳細は、ご依頼される司法書士にご確認を。
改正等は即時反映修正しておりません。

 

新しい取締役を代表取締役に選定する場合(代表取締役の完全交替)

現在の代表取締役が、取締役も退任する場合は、ほぼほぼ 取締役全員の印鑑証明書が必要となります(定款変更して株主総会で代表取締役を選定できる旨を定める場合は別)

 

株主総会はリアルに行い、取締役会だけを書面決議にする場合を検討してみます。

 

定時株主総会で新取締役を選任・同日就任、同日代表取締役の選定・同日就任、全てを定時総会当日とすることを想定してみます。
この場合に取締役会を書面決議(会社法370条の決議省略)で行う場合、予選ができない以上、定時株主総会で選任された取締役が即就任承諾し、直ぐに代表取締役選定案を提案して、即行新しい取締役を含む取締役全員がこれに同意書に実印・印鑑証明書添付・・・という筋書になるでしょう。なお、提案者が新しい代表取締役の場合に、提案書や同意書の作成者に、代表取締役・・・と記載するのは、時期尚早ですよね。
また、登記の場面は、「重任」時とは異なり、「出席した」という文字にとらわれることなく、取締役全員の同意書(実印・印鑑証明書)又は取締役会議事録(全員実印・印鑑証明書)の添付をします∵規61Ⅵ③準

 

取締役全員の印鑑証明書を添付するのが面倒だとして、定款変更して「株主総会」で代表取締役までも選定した場合、確かに、株主総会に出席した議長・取締役だけの印鑑証明書で足りるから事前準備がラクだとしても、取締役会で決議しなければならないことが他にあれば・・・結局、提案・同意書をもらうことになり、免れるのは印鑑証明書の取得の部分だけ・・・ってなる会社がほとんどでは?ただ、印鑑証明書・電子署名が難しい海外在住者がいる場合にはそれも効果的なのかもしれません。

 

〇〇の電子署名はできますか?

役員変更関連の書類をPCで作成して・・・従来ならば印刷して、再任重任役員さんに回して署名、あるいは記名押印としていたところ、現場に役員さんもおらず、ご自宅にお送りして返信をお願いする・・・あるいは、メール添付して電子署名して返信してもらうか・・・あるいはクラウドで・・・

 

いずれにせよ、役員さんが電子署名をできるかどうか、さらにお持ちの電子署名の種類によって対応は大きく異なります。また記録内容と署名の種類の関係も検討しなければなりません。

 

そもそも電子証明書には、実印と同じ扱いの商業登記電子証明書・マイナンバーカードを利用するタイプのもの(公的個人認証サービス)などのほかに、セコムトラストシステムズなどの特定の会社を利用するものがあり、役員さんたちに説明する際に困るのがその特定の会社を利用するタイプのもの。
特定の会社のものには、実印タイプのものと、認印タイプのものがあり、最近急増しているリモート署名やクラウド型署名は「認印」扱いです。
リモート署名・クラウド型署名は、再任の取締役の就任承諾書には利用できますが、実印が必要となる新規の(代表)取締役などの場合は利用できません。議事録署名者と電子証明書の種類との関係に注意が必要です。

 

改正により押捺不要となった添付書類~追記

令和3年2月15日に商業登記規則等の一部を改正により、変更登記申請に添付する株主リスト、定款など・・・会社実印の押捺が不要とされる書類が増えました。
しかしながら、司法書士が受任する場合は、実体関係確認義務により、従来どおり実印押捺をお願いするはずです。

 

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